朝倉祐介さんの書籍『ファイナンス思考』は、最初にAudibleで聴きました。
一度では終わらず、少なくとも3回は聴いています。それでも手元に置いて読み返したくなり、最終的には紙の書籍も購入しました。
特に印象に残ったのは、ファイナンスを単なる数字の知識ではなく、未来のために限られたリソースをどう配分するかという考え方として捉えている点です。
一方で、読んでいる途中には「PL脳の反対はBS脳ではないのか?」という疑問も浮かびました。
調べていくと、BS思考とファイナンス思考は似ているようで、少し違うものだと感じています。
この記事では、本書の内容をすべて要約するのではなく、
- 「PL脳」とファイナンス思考は何が違うのか
- 「BS脳」とファイナンス思考はどう違うのか
- なぜ長期的に考えることは意外と難しいのか
- 個人投資家にも「PL脳」はあるのではないか
- ファイナンスを健康のような「土台」と考えるとどう見えるのか
といった点を、私自身が読んで考えたこととあわせてまとめます。
『ファイナンス思考』が気になっている人はもちろん、決算を見るときに利益ばかり気にしてしまう人や、資産運用をもう少し長い目線で考えたい人にも、何かヒントになる部分があると思います。
『ファイナンス思考』をどう理解したか
『ファイナンス思考』が問題にする「PL脳」とは
本書で繰り返し登場するのが「PL脳」という言葉です。
PLは売上や営業利益、当期純利益など、一定期間の経営成績を見るためには欠かせません。
もちろん、PLを見ること自体が悪いわけではありません。本書が問題にしているのは、目先の売上や利益をよく見せることが目的になり、長期的な企業価値を高めるための意思決定ができなくなってしまうことです。
ダイヤモンド社も本書を「会計は『過去』を、ファイナンス思考は『未来』をみる」と紹介しています。
また、朝倉氏自身も、目先の売上・利益より未来の成長を考えることをファイナンス思考の中心に置いています。
私なりに整理すると、こんな違いです。
| 項目 | PL脳 | ファイナンス思考 |
|---|---|---|
| 注目しやすいもの | 売上・利益 | キャッシュフロー・企業価値 |
| 時間軸 | 足元・短期 | 現在から未来 |
| 判断 | 今期の利益は増えるか | 将来生み出す価値は増えるか |
| 投資 | 利益を圧迫するものにも見える | 将来価値につながるなら必要 |
| リスク | なるべく避けたくなる | 管理しながら取るべきか考える |
短期的な利益を見ることも当然必要です。
ただ、それだけを基準にすると、研究開発、人材、設備、新規事業など、本来は将来のために必要な投資まで「今期の利益を減らすコスト」に見えてしまうことがあります。
『ファイナンス思考』は、そこから時間軸を伸ばして企業を見ることを促す本なのだと感じました。
「PL脳」の反対は「BS脳」ではないのか?
ここで、私が最初に引っかかったことがあります。
PL脳が短期的な損益に偏った考え方なら、その反対は「BS脳」なのではないか?という疑問です。
BS、つまり貸借対照表は、その時点で企業が持っている資産や負債、純資産を見るものです。PLが一定期間のフローを見るのに対して、BSはある時点のストックを見る。
そう考えると、
PL=短期的・フロー型
BS=長期的・ストック型
という捉え方ができます。
実際に調べてみると、「PL思考/BS思考」という考え方は存在します。
GOETHEの記事では、PL思考を「その場限りで資産にならないもの」、BS思考を「積み上がっていく資産」として説明しています。
さらに、預貯金や投資だけでなく、スキルを身につける自己投資や健康維持まで、将来につながる人的資産としてBS思考に含めているのが興味深いところです。
ここまで読むと、「目先を見るPL思考ではなく、将来に残るものを積み上げるBS思考を持てばいいのでは?」とも思います。
では、『ファイナンス思考』はなぜ「BS脳」ではなく「ファイナンス思考」なのでしょうか。
BSを見るだけでは、ファイナンス思考にはならない
何度か聴き直しながら考えて、私はこう整理するようになりました。
PLかBSか、という話ではなく、1つ上の抽象度の話が「ファイナンス思考」だということです。具体的には次のように考えました。
PLも見るし、BSも見る。もちろん、キャッシュフローも見る。それらを材料にして、将来の企業価値を高めるために、いま持っているリソースをどう使うのかを考える。そこまで含めたものがファイナンス思考なのではないか。
「PL脳から抜け出す」と聞くと、「ではBSを重視すればいい」と考えたくなります。
でも、BSに現金がたくさん積み上がっていれば、それだけで優れた経営といえるのか。いや、そうではないでしょう。
例えば、その現金を使って将来価値を生み出せる投資機会があるのに何もしないのであれば、それが最善とは限りません。
逆に、借金があること自体をもって悪いとも言い切れないでしょう。調達した資金によって、それ以上の価値を将来生み出せる可能性もあります。
経理プラスの記事も、この関係を考えるうえで参考になりました。
この記事では、中小企業がいきなりファイナンス思考を実践するのは難しく、まずBSを理解することが重要だとしています。
そのうえで、半年後の預金残高を考えるには、PLだけでなく借入返済、設備投資、売掛金・買掛金、在庫などのBS項目まで考えなければならず、結局キャッシュフローの動きにつながっていくと説明しています。
つまり私の中では、「PL脳からBS脳へ」で終わるのではなく、PL・BS・CFを材料にして未来の価値を考える。
そう理解すると、「BS思考」と「ファイナンス思考」の違いがかなり腑に落ちました。
ファイナンス思考は「未来のためのリソース配分」なのかもしれない
本書を何度か聴いているうちに、私はファイナンス思考を、過去や現在の状態を踏まえて、未来のためにリソースを配分することのように捉えるようになりました。
企業には、お金だけでなくさまざまなリソースがあります。人、モノ、情報、時間、ブランド、技術などです。
その中で、お金は企業活動のかなり多くを横断して表現できるものです。人を採用するにもお金が必要ですし、設備をつくるにも、新しい事業を始めるにも、研究開発するにも資金が必要です。
そう考えると、企業経営において、お金はある意味で「第一言語」に近いと思います。これは本書にそのまま書かれている表現ではなく、読んだ私自身が感じたことです。
お金を「第一言語」としてとらえ、ファイナンスを通して考えることで、次のことが見えやすくなります。
- 「どこから資金を集めるのか」
- 「事業からどうキャッシュを生み出すのか」
- 「生み出した資金をどこへ振り向けるのか」
つまり、ファイナンスは単に「お金を増やす技術」ではなく、未来に向けて限られた資源をどう配分するかを考えるための方法なのではないかと感じました。
ファイナンスには4つの側面がある
この理解とつながったのが、第2章に出てくる「ファイナンスの4つの側面」です。ダイヤモンド社の公式目次でも、第2章の主要テーマとして挙げられています。
朝倉氏は、企業価値を最大化するためのファイナンスの活動を、外部からの資金調達、資金の創出、資産の最適配分、ステークホルダー・コミュニケーションという4つに整理しています。
ここが大事だと思いました。具体的には次のように解釈しました。
- 「ファイナンス=資金調達」ではない
- 外からお金を集めるだけでもなければ、たくさん利益を出すだけでもない
- 借入返済に使うのか、株主へ還元するのかを考える
- さらに、その判断の合理性をステークホルダーに説明するところまで含める
この4つを見ていると、やはりファイナンス思考は「BSを重視すること」よりも広い概念なのだと思います。
ファイナンス思考は、分かっていても実践が難しい
ここまで読むと、「では短期的な数字に振り回されず、長期で考えればいい」となりそうです。
でも、言うほど簡単ではありません。
私が本を読みながら考えたのは、余裕がなければ、そもそも長期的に考えることが難しいのではないかということでした。
余裕がないと長期で考えにくい
企業で考えてみます。来月の支払いにも困っている会社に、「5年後の企業価値を考えて投資しましょう」と言っても、それどころではないでしょう。
では、企業にとっての「余裕」とは何なのかでしょうか。
それは、単純な手元現金だけではなさそうです。安定した営業キャッシュフローや借入余力、固定費の大きさなど、いくつかの要素が関係してきます。
この話は、とても人間的だと思いました。ファイナンス思考が正しいと知っていた著者でさえも、いつでも長期的な判断ができるわけではないと語っていたからです。
個人投資家も「PL脳」に陥るのではないか
そして、これは個人にも、個人投資家にも当てはまる気がします。
生活費で毎月ぎりぎりの状態で、「20年後のために最適な資産配分を考えよう」と言われても難しいでしょう。ある程度の預金があり、毎月の収支が安定し、突然の出費にも対応できる。そうした余裕があって初めて、少し先のことを考えやすくなります。
個人投資家でも似たことがあります。
「できるだけ早く儲けたい」「なるべく楽に大きな利益を得たい」という気持ちが強くなるほど、目の前の株価や含み益、直近の決算だけに意識が向きやすくなります。
もちろん、短期売買そのものが悪いわけではありません。
ただ、短期的な利益を得ること自体が目的になり、企業が将来どれだけ価値を生み出せるのか、どんなリスクを取っているのかを見なくなれば、個人投資家もPL脳に近い状態になるのではないかと思います。
逆に、ある程度の生活防衛資金があり、無理のない金額で投資していれば、目先の値動きだけで判断せずに済みやすくなります。
企業にも個人にも、長期的に考えるためには「考える余裕」が必要なのかもしれません。
だから私は、長期思考を持つためには、長期思考できる財務状態をつくることも大切なのではないかと感じました。
これは本書の主張をそのまま書いたものではなく、私自身が『ファイナンス思考』を読んで考えたことです。
ファイナンスは、やりたいことを支える土台
「ファイナンスは健康と同じ」という考え方を思い出した
『ファイナンス思考』を聴きながら、以前読んだ苫米地英人氏の『Dr.苫米地式資産運用法なら誰もが絶対にrichになれる!』のことも思い出しました。
2015年にヒカルランドから出版された本です。
この本では、ファイナンスを健康になぞらえて考えています。具体的には、次のような主張がされています。
健康を考えるとき、体重や血圧を無限に大きくすることが目的ではありません。大切なのは、全体として健全なバランスが維持されていることです。
ファイナンスも同じで、収入や資産額を際限なく増やすことそのものがゴールなのではなく、収入と支出、そして自分がやりたいこととの健全なバランスが維持されていることが重要だ、という考え方です。
私はこの考え方が好きです。
資産を増やすことそのものを人生の目的にすると、どこまでいっても終わりがありません。1000万円になったら2000万円。2000万円になったら5000万円。その先には1億円があります。
もちろん、資産が増えること自体はうれしいことでしょう。
でも、大切なことは、何をしたいのか。そのためにはどのくらいのお金が必要なのか。そして、今あるお金をどこへ配分するのか。ということなのだと思います。
『ファイナンス思考』を読んで感じた「未来のためのリソース配分」と、苫米地氏の「ファイナンスはやりたいことを支える土台」という考え方。
別の本の話ですが、私の中ではかなりつながりました。そしてこれは、このブログを「資産運用の体調管理ノート」と名付けたときの感覚にも近いものがあります。
資産額を際限なく大きくすることよりも、やりたいことをできる状態を保つために、お金の状態を整えておく。
私が資産運用で大切にしたいのは、こちらなのだと思います。
「態度であり、思想であり、究極的には志」という言葉が意味するもの
本書の終盤で、特に印象に残った部分があります。
朝倉氏は、ファイナンス思考について、単なる理論や知識ではなく、「態度」や「思想」の問題であり、究極的には「志」の問題だとしています。
この趣旨は、本書を紹介したダイヤモンド・オンライン以外の記事でも確認できます。ダイヤモンド・オンライン
私はこの言葉を読んで、なぜ自分がこの本を何度も聴いているのか、少し分かった気がしました。
ファイナンス思考は、公式を覚えれば身につくものではありません。
- PERやPBR、ROIC、DCFの計算ができれば完成、というものでもない
- 目先の数字だけを追いかけてもいけない
- 未来のために、今ある資源をどう使うのか
- 自分はいま何を目的に意思決定しているのか
このようなことを繰り返し考える「姿勢」に近いのでしょう。
常に求められる「姿勢」だからこそ、一度読んで理解したつもりになっても、しばらくするとまた目先の数字や結果に引っ張られてしまうのでしょう。もちろん、私も例外ではありません。人間だもの。
だからこそ、定期的にこの本を読み返したり、Audibleで聴き直したりすること自体に意味があるのかもしれません。自分自身がファイナンス思考ができているかを振り返るきっかけになるからです。
むしろ、本書を読みながら、聴きながら内省する機会を与えてくれることこそが、本書の最大の価値なのかもしれません。
Audibleで3回聴いて、それでも紙の本を買ったのはなぜか
私は『ファイナンス思考』を最初にAudibleで聴きました。そして、少なくとも3回は聴いています。3回聴いたなら、それで十分な気もします。
それでも私は、そのあと紙の書籍も買いました。
理由は単純で、もう少しきちんと読みたいし、手元に置いておきたいと思ったからです。
最初に聴いたときと、2回目、3回目では、引っかかる場所も変わりました。
最初は「PL脳」という言葉が印象に残り、次第に「ではBS脳とは何が違うのか」「ファイナンスとは結局何をすることなのか」と考えるようになりました。
Audibleの付属資料もよかった
また、Audible版は付属資料も良かったです。
PLやBS、企業価値などの話は、音だけだと少しイメージしづらいところがあります。資料を確認しながら聴けると理解しやすくなりました。
紙の書籍にも「会計とファイナンスの基礎とポイント」という特別付録が収録されています。公式目次でも確認できます。ダイヤモンド社
私の場合は、Audibleで繰り返し聴く → 気になるところが増える → 書籍も買って手元に置くという流れになりました。
こういう本は、一度ですべてを理解しようとするより、何度か触れたほうが自分の中に残る気がします。
この本を読む前に知っておきたいこと
良い本だと思いますが、誰にでもすぐ読みやすい本かというと、少し違うと思います。
まず、かなり長いです。紙版は336ページあります。
また、PLやBSといった会計の基本がまったく分からない状態だと、一部は理解しづらいかもしれません。
企業の資金調達やキャッシュフロー、企業価値といった話も多いため、経営者や株式投資をしている人のほうが実感を持ちやすいと思います。
一方で、普段から決算書を見たり、
- 「この会社はなぜこの投資をするのだろう」
- 「この利益やキャッシュを今後どう使うのだろう」
と考えたりする人には、かなり面白い本だと思います。
株式投資をしている私にとっても、「増収増益だから良い会社」だけで企業を見ていないかを考え直すきっかけになりました。
章の順番にこだわらなくてもいい
本書は長いので、私は各章を大まかに次のように理解しました。
第1章でPL脳の問題
第4章でPL脳に陥った企業の事例
第5章でPL脳になってしまう理由
第2章でファイナンス思考
第3章で企業事例
という構成となっていると捉えました。
全部を細かく覚えようとするより、「今は何について話している章なのか」を意識して読むほうが、私には理解しやすかったです。
PL脳の問題点やまずいところを第1・4・5章で理解し、じゃあどうすればいいかについてを第2・3章で理解すればよいと思います。
何が言いたいかというと、本書の章の順番で読まずとも、気になる順番で読めば良いということです。
まとめ|ファイナンスは、未来のための土台
『ファイナンス思考』を読む前は、もう少し「ファイナンスの技術」を教える本だと思っていました。
実際にAudibleで3回ほど聴き、それでも気になって書籍まで買ってみると、私に残ったのはむしろ考え方の部分でした。
最初に感じた、「PL脳の反対はBS脳ではないのか?」という疑問。
調べてみると、PL思考とBS思考という考え方自体は確かにあります。
ただ、『ファイナンス思考』で考えていることは、BSを重視すれば終わりという話ではありませんでした。
PLもBSもキャッシュフローも材料にしながら、未来のために、今あるリソースをどう配分するかを考える。その姿勢そのものが、ファイナンス思考なのだと私は理解しました。
そして個人に置き換えるなら、お金を最大化することそのものが目的ではありません。自分がやりたいことを実現できるように、収入、支出、資産のバランスを整えておく。
私にとって、やはりファイナンスは健康に近いものなのだと思います。体調が整っているから、やりたいことができる。同じように、お金の状態が整っているから、人生の選択肢を持つことができる。
『ファイナンス思考』は、企業を見る目だけでなく、自分自身のお金との付き合い方についても、改めて考えさせてくれた一冊でした。

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